「私は、荀令君を尊敬していた。同時に婦女子が抱くような、子供が父親へ抱くような憧れも持っていた。後者は、尊敬する父親に追いつきたい、追い越したい、でも、実際追い越したら、尊敬できなくなったらどうしようとそんなものだった。誰にだって、覚えはあるだろう?」

「ええ」俺は、曖昧な相槌を打った。

「だが、前者の方の感情はなんとも説明がつかなかった。確かに荀令君は美しい。

大理石の様に白くて滑らかな肌、涼やかな眉、女子の臙脂のような媚のない血を感じさせる唇の紅さ・・・・亡き殿(曹操)にも『女に生まれていたなら、西施をも恥らわせたであろう』とからかわれた美貌だ。ただ、ご本人が頑なに伸ばしていた髭と脛毛が男であることを物語っていた。私は、そんな髭や脛毛でさえ憎いと思った。髭で荀令君の滑らかな肌が傷つくのではと余計な心配さえしたものだ。私は、ずっとこの美しさを見守り敬いたいと思うようになっていた」


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