過去の自分がおかしくなったのか、鳩のように喉をクククと震わせ笑う。

「そんな荀令君も、だんだんお疲れからか黒い艶々とした髪に数本の白髪が見せるようになった。しかし、そんな事とは関係無しに、その美しさには益々磨きがかかり、そのうち月にでも上ってしまうのではないかという神仙めいた美しさだった。私は、不安になった。
これは、蝋燭が消えるほんの前に見せる最後の美しさではなかろうか。これまでが奇跡で、戦死者の死体のように醜さを露呈させながら、おぞましい臭いを発し、死ぬ時は穴という穴から全ての体液を垂れ流すようになる運命から逃れることは、さすがに荀令君でも出来ないのではないだろうかと。生きる目標にしてきた荀令君のそのような姿を見て、生きていくのはつらい。以来、私は鬱々と過ごす事が多かった。

ある日帰り道で声をかけられた。荀令君の甥で荀攸公達殿だった。
『元気が無いですね』ニコニコと話かけてきた。夕方だというのに、その笑顔は太陽の様に朗らかだった。荀令君と公達殿の容姿は似ていたが、決定的に違う点があった。荀令君は、冷たく険しい美しさであるのに対し、公達殿は明るく愛嬌のある美しさだった。わずか4歳で一族の犠牲となり、美人とはいえ宦官の娘を妻にあてがわれてしまった者と、自由に行動出来る者との差だった。


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