「まさか麻沸散を大量に人間に飲ませたのではないですよね?」

「そのまさかだ。私は、荀令君をこの世で一番美しい賢人として永遠に生きさせることにした。荀令君の頭のキレも、美しさも今が一番で後は下降線を辿っていくだけだろうと思ったからだ。それくらい、美しく賢明な方だった。私は、曹操様からの贈り物の菓子と酒に大量の麻沸散を入れた。そして使いとして荀令君へお運びした。

『ありがとう』そのときの荀令君の笑顔はこれまでに見たことがない程輝いていた。
ああ、やっぱり醜く崩れていく手前で見せる美しさなのだなと私は思った。

『仲達殿、一緒に菓子を食べましょう』そう云って菓子を手のひらへ乗せてくださった。
もう死んでいるのではないかと思うほど、冷たい手だった。私は辞退した。このまま二人で心中もいいが、私には荀令君の遺体を美しく保管する義務があるのだ。

『いつもは一緒に食べるのに。変な子ですね』笑って荀令君は菓子を食べた。

荀令君は、いつも私を弟のように可愛がってくれた。私もそれに応えて荀令君は、こうすれば喜んでくれるであろう、言動、表情をした。体調を崩されていた荀令君はこれまでにないほど、菓子と酒を口にした。麻沸散が効いてきたのか、荀令君の表情がおかしくなってきた。寝言のようなことをいうようになってきた。

眠たげな表情をしていた。私は、籠に入れ持ってきた人一人隠せるだけの牡丹の花と芍薬の花をいっぱい荀令君の体にかけてやった。花びらは荀令君の髪や腕や脚も隠した。


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