とうとう、鼻と口以外全て隠してしまった。花びらと間違えてしまいそうな紅い唇は『仲達殿、ありがとう』とはっきりそう云った。私は耳を疑った。荀令君は私の殺意に気付いていたのか!?口しか見えないので、表情は見えない。口角はわずかに上がっていた。私はその時初めて人の命を自らの手で殺めるという行為に恐ろしさを感じた。そして、全てを消し去るように残った荀令君の唇と鼻をも花で埋めた。荀令君は最初から死んでいたかのように亡くなった。どうやって帰ったかは覚えていない。葬儀の時、公達殿と陳羣殿に呼び止められこう云われた。
『婦女子のようだと笑われるかもしれませんが、おじさまはあの美しさを無くす事を恐れていました。おじさまに代わり、礼を云います』
『義父も望んだとおりの死に方を出来て喜んでいるでしょう。しかし、仲達殿、心中というものは相手のあるはずの未来をも奪い去ること。義父は喜んでいるでしょうが、私には理解できませぬ』二人は私が荀令君を麻沸散で殺したことを知っていた。
人一人、肉親一人死んだというのに冷静だった。
葬儀では棺おけの中身は公開されず、それにより自殺とも病死とも云われた」
「嘘だ!本当なら、荀令君の生前のままのご遺体があるはずだ!」
俺は、声を荒げた。死んだ人間が生前のまま生きている?そんなことあってたまるものか!
「本当だよ。我が家の地下に今もお休みになられている。見に行くか?」