「はい。私も一将たる者、常に部下の死を覚悟するものだと考えています」

「おお、そうだ」

「しかし」

「しかし?」

「しかし、部下の死を覚悟したり、責任を持つ事と、非情は違う筈です」

棗祗は厳しく答えた。

「部下の命を計算として考えて了う事に、私はどうも納得がいかないのですよ。幾多の兵書に通じた非凡なる戯参軍も、実践には通じていない。通じていないからこそ、時に紙上の兵を唱えて了う」

棗祗の言葉が、夏侯惇には何と無く理解できた。勝つ為とは言え、味方を死地に追いやる様な事は、己はしたくないと思う。例えば、その任に志願してもいない者達を囮として殺す事はしたくない。仮令大勝したとしても、囮として敵に殺された士卒達が喜ぶとは、夏侯惇には思えなかった。事実、この様な勝ちを一時は得ても、配下の信頼を以後は失う。ならば次回からの戦闘指揮に悪影響が出る事は否めないだろうと考える。

「戦力を減少させた時も、有効に利用する。寡しの兵を失いながらも大きく勝つ。これは確かに優れた将として認められる才能ではあると思います。しかし、これでは猛将や智将という評価が精一杯の評価というところ。名将ではありませぬ」

「では」

夏侯惇は息を呑み、そして言葉を続けた。


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