曹操軍の中で特に優れた人を挙げるとすれば、夏侯惇、戯志才、棗祗、程立の四人が挙げられるだろう。夏侯惇は、猛夏侯こと夏侯淵を始め、曹仁、秦邵、曹洪といった優れた部将を纏める将としての大きな器を持っている。神機妙算で知られた戯志才は戦略眼に優れ、大局的な見通しから作戦を立案できた。棗祗は軍政で並ぶ者を知らない。意謀有りと称せられる程立は、対敵諜報の専門家である。しかし嘗てはここに、陳宮の名も有ったのだ。二人の動揺は大きい。

 「奴は手強いな」

 「はい。ですから今回は、本来失策と呼ぶ程の事では無いと考えます」

 「何と? 仮令敵が強くとも、俺が敗れたのに違いはあるまい!」

 夏侯惇は棗祗の言葉に驚いて了う。

 「いえ、負けてはおりませんから」

 「何? 負けてはおらぬと申すか?」

 「はい。敵の強さから考えれば、我等は全滅していても不思議はありませんでした。しかし今我々は潰走も敗走もせずに、三城を保っております。つまり」

 「つまり?」

 「反撃する為の余地を残した、という事です。勝てはしませんでしたが、完全な負けを免れた。これは大きな事です」

「大きいか?」

「はい。これは迚も大きな事です。瓦解せず三城残した」

「そうか」

「そうです」

真面目な顔をして言う棗祗に、夏侯惇は笑って了う。


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