「私は以前、陳将軍にも同様の質問をしました」
「おお、公台にか! 奴ならば知っておろう。で、奴は何と答えた?」
陳宮の名を聞き、夏侯惇が嬉しそうに聞く。今は敵と雖も、そこには尊敬の念が籠められていた。それに棗祗は微笑みながら答える。
「陳将軍が言われるには、戦闘の前に勝つ為の準備をしている事こそが、名将の条件なのだそうです」
「良く解らんな。勝つ為の準備とは一体何の事だ?」
「簡単に言えば、敵より多い数の兵を揃え、物資を確保し、素早い決断で有利な地形を先に抑えている事でしょう」
それを聞き、夏侯惇は難しい顔になった。
「うーむ。公台の言いそうな事だなぁ。あいつには苦しい場面で頼ってばかりだったから、楽に勝てる準備をする者こそを名将と考えたのだろうよ」
「そうでしょうね。それに適材を適所で用いる事も含まれると思います」
同じ様に難しい顔をして、棗祗は言った。
「お前も意地の悪い奴だなぁ」
と夏侯惇は答えて、
「しかし仕方の無い事とは言え、公台には可哀想な事をしていたよ。怨まれても仕様がないな」
と続ける。それに棗祗も
「造反は熾るべくして熾った、としか言い様が無いですね」
と、済まして同意した。