「勝敗は兵家の常勢。古えの時代ならいざ知らず、常勝等という事は、常識的に不可能であろう」
「つまり、将軍の定義では条件を満たす者はこの世に居らず、畢竟、人の世に名将は居らぬという事に為ってしまいます。これで宜しいのでしょうか?」
「そうだなぁ。この世に名将等は存在せぬのかなぁ」
夏侯惇は悲し気な声を出し、棗祗を見る。
「なぁ、居らぬのか?」
すると、棗祗は怒ったかの様な調子で夏侯惇に怒鳴った。
「何を言われますか! 名将という言葉は、架空の存在の為にある言葉ではありませぬ! それは将軍の定義に誤りがあるだけの事。名将は確かに存在します!」
こう言われると、寂し気な顔をしていた夏侯惇であったが、心を映す様に両目を煌めかせた。
「そうだな。そうだよな。俺の定義が違うのだよな。好かった。ではこの世に名将はちゃんといるのだな?」
「はい。無論ちゃんといますとも」
棗祗は優しく夏侯惇を見る。
「於戯、俺は嬉しいぞ。好かった。この世に名将がいたとはな」
夏侯惇は嬉しそうな顔で笑う。
「しかしそれでは、名将の条件とは一体何であろうか?」
夏侯惇は疑問を述べる。
「難しい問題ですね」
と笑った後に棗祗は続けた。