「こちらは出方に応ずる構えを採らねばならん。俺には別にやるべき事がありそうだ。全体の用兵はお前にも出来るが、これからの仕事は俺にしか出来ん。宜しく頼むぞ」
「到底聞ける内容ではありません」
突然の事に、腹立たしげに韓浩が答えた。
「全隊を統べるべき一将が現場を放棄して、司馬に全権を委ねるなど前代未聞です。しかも危険に身を置かれるお積りか」
「うむ。俺も過分にして前例を知らぬし、それにも拘らずのお積りだ」
「前例を知らぬのは、前例が無いからに他なりますまい。到底聞ける内容ではありません!」
韓浩は怒り、夏侯惇を睨み付けた。
「聞ける内容で無くとも命令だ。負けぬ為には仕方が無い。お前が強硬に反対した事は記録に残す」
「その様な問題では‥‥‥」
と、まだ韓浩は言いかけたが、
「命令だ」
と夏侯惇は強い調子でそれを遮った。
「巧く退く為には、時にはこの様な異例の配置も必要だと俺は考える。事態は緊急だ。今回だけは頼む。温和しく従って呉れ」
この言葉に説得は無理と諦め、渋々と韓浩は頷いた。