夏侯惇は主簿の夏侯蘭に今の内容を確りと記録する事を伝えると、
「抜かれれば脆い。宜しく頼むぞ」
と韓浩の肩に手を置き微笑んだ。そして大声を上げて命令を下す。
「先ずは敵に圧力を掛ける。全隊微速の前進!」
韓浩も復唱する。
続けて夏侯惇は命令を発し、又もや韓浩が復唱した。
「予備は全て後方を警戒。後方に脅威が無い時と判断された時、四百の騎馬を除く全てを前面に投入する!」
「予備は別命ある迄、後方で警戒態勢を採れ!」
夏侯惇は韓浩に微笑み、
「以後の判断は韓浩、お前に一任する。信頼に応えて呉れ」
と謂うと、従卒の差し出す戟を拒み、供も連れず独り馬を飛ばして満寵の元に急いだ。
「そろそろ敵の突撃が始まる頃ですな」
「おう。土煙るであろうし、それは直ぐに知れようよ」
満寵の言葉に夏侯惇は馬を降り、にこやかに笑った。満寵も黒鹿毛の傍らに立ち、突撃に備えて馬を休ませている。満寵は既に騎兵を百づつ三つの方陣にし、「品」の字を逆さにした形で組み、攻撃の準備を整えていた。そしてその進行方向側には、夏侯惇が指揮する予定の一百騎も、竪陣で配置させている。