「敵が本気で突撃をして呉れば、陣は維持出来ますでしょうか」
満寵が問うのを
「恐らく長くは持つまいよ」
と、夏侯惇は簡単に答える。
「暫くすれば支えきれず、簡単に抜かれるだろうなぁ」
「その割には危機感が無い様に、小官には感じられますが」
「まぁ、敵も多大な犠牲を払うだろうからな。幾ら得意とは言え、出来れば堅く構えた相手に突撃はしたく無かろうよ。だから敵の突撃は、今回最初は弱い」
夏侯惇の言葉に満寵も頷く。
「突撃で意識を逸らし、我々を後方から攻撃するとなれば、その速度から考えて、小規模編成の騎馬でしょうな」
「後方因りの撹乱の後、本格的な突撃を開始するのだろうよ」
夏侯惇は笑って答えた。
「まぁ、その撹乱を防ぐ為に、俺達が此処に待機している訳だがな」
「しかし本当に将軍の推測は当たるでしょうか? 敵が策無く、只単に攻撃を開始するという事もありえる事かと考えますが」
こう話している内に南西の敵が動き始める。満寵の問いに
「一日に何度も外して堪るかよ」
と夏侯惇は闊達に笑った。事実、あの仰々しい迄の戦太鼓が、後方への警戒を夏侯惇に呼びかける。あの殊更めく鼓の音は、味方を鼓舞し、敵を威嚇する為のみに打たれている筈は無いと、夏侯惇にはそう感じられて仕方無いのだ。敵は海千山千の呂布軍であり、その指揮は、巧者で知られた侯成なのである。