武勇で知られる満寵にも、矢張り緊張は隠せない。それを敏感に感じ取り、夏侯惇は満寵に話しかけた。硬くなっていては仕事に支障が出る、という事を、夏侯惇はちゃんと知っているのである。己は、危機に瀕しているという焦りを消し、飽くまでも軽い調子を保っている。
「なぁ。お前は名将の条件をどう考えるかな?」
突然の質問に驚き、満寵は暫く声を出せない。夏侯惇はにこやかに返答を待った。
「名将、でありますか?」
満寵はやっとという感じで言葉を発した。
「うむ。名将だよ。実は棗祗に出題されてなぁ」
夏侯惇の言葉に満寵が合わせる。
「東阿令に、でありますか?」
「おお、そうだ。東阿令にだ。奴は俺に訊いたのだ。名将の条件を何と考えるか、とね。お前なら解るか?」
戸惑いながらも暫く考え、満寵は応える。
「では僭越ながら小官の考えを」
「おうおう。そういうのは良いから、早く言え」
「は。小官が思いますにそれは、負けぬ事、では無いでしょうか?」
満寵の答えに夏侯惇は笑う。