夏侯惇は頷き、西南に陣取る二千余りの錐行陣を見つめた。黒々とした二千余りはその存在を示す為に相変わらず戦太鼓を打ち、勇壮である事を誇示している。その響きは、積乱雲が轟く様に感じられ、夏侯惇も大きな注意を払わざるを得ない。下手に動けば、この蠢く雷雲の餌食になり、大きな損害となるだろう。

報告が続く。

「対敵諜報部の解析に因りますと、敵主力部隊の指揮は、侯成である可能性が九割。陣形等から考えますに、侯成で先ず間違いは無いと申しております」

「うむ。下がってよい」

侯成と言えば、呂布配下の特に優れた八将の内の一人であり、驕傲で知られた千軍万馬の騎将。敵の配置を視れば只者では無い事は一目で判るが、敵将の名が解れば益々用心をせねばならぬと思う。戦慣れした、強敵中の強敵であった。


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