「突撃に前へ!」

百本の戟が林立する先頭で、鋼刀を振り上げた夏侯惇が号令を発する。百名は三列縦隊の竪陣を形作り、機動速度を重視しているのは素人目にも明らかだ。その後方には「品」の字を逆さにした形に並ぶ満寵麾下の騎兵三百が続く。

陣の表側では、既に数度の突撃が陣を襲っていた。激戦が更に熱を上げ、大激戦の模様を見せている。中央一点の突破を狙う呂布軍に対し、曹操軍は前衛を用い、左右からの包囲を狙うという具合に、両軍は激しく鬩ぎ合っていた。しかし真にこの戦いの帰趨を決するのは、この裏側なのである。互いに兵数は僅かであるが、現在その重要性では、表側の戦いを遙かに上回る。この重要性は互いに良く理解していた。

陣の先頭に立つ夏侯惇が見た所、敵の騎兵の構成は二段構えである。後方は通常の戟を構えた騎兵であるのだが、厄介なのはその前の五十騎余りであった。先を駈ける五十騎余りは弩弓を持った兵で、騎兵で有りながらも射兵を持つという特殊な兵科である。通常、馬上で弓を扱う事は困難を要するが、この様な兵科であれば、それ程の苦労は無く高い照準精度を保てるであろう。それが互いの射線を邪魔せぬ様、散開して進んでいるのである。夏侯惇は敵の抜け目の無さに咄呵する。しかし、これは大変に強力な兵であるが、一度の斉射を凌げば勝ち目があるとも考える。勝算を見出し、夏侯惇は覚悟を決めた。


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