ホウ会・棺は父の血に染まり、心は殺意に染まる


――建安二十四年(219)七月某日

「父上、これは何ですか?」

 戦場に出立する日、屋敷に届けられた大きな箱を見て、私は父にそう尋ねた。

「これか?これは儂の棺だ」

 父は事も無げに言う。

「何故このような不吉なものを?」

 当然であろう。戦場に自分の棺を持っていくということは戦場で死んでくると言っているのと同義ではないか。すると父は

「これは私の死をもいとわぬ覚悟を示したものだ」

と答えた。更に

「元々、儂は殿と敵対していた身。今は降って忠誠を誓ったとはいえ、未だ宮中には儂を疑う者もいる。また敵方には儂のかつての主君や従兄がいるのでな・・・・」

「ですが、だからといってこのような不吉なものを用意せずとも・・・・」

「それに、今回の敵は殿が一目も二目も置くあの関羽だ。これはそれに対し一歩も退かず、己の武を全うし、必ずあの男をこの棺に入れてくるという決意の表れでもあるのだ」


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