「押し潰せ!!」
 怒号と共に、彼は五千の手勢を津波のごとく放出した。
 長大な梯子を次々に城壁へ立てかける蜀兵──蟻が死肉にたかる似て、続々それをよじ昇りはじめた。
 それでも、陳倉にまったく変化は見られない。
「それ!!敵は臆しておるぞ!!」
 魏延の部将・謝雄という者が、雄叫びを上げた。寄せ手の第一陣は、この謝雄が率いていたが、彼の部隊がついに城壁上へ躍り上がろうとした刹那……!!
 彼ら蜀兵の頭上に現れたのは、無数の大鍋、大釜の群れであった。
 それらの中には、煮えたぎった油がふつふつと沸き立っている。
 その大鍋、大釜は、灼熱の油をたっぷりと湛えたまま、城壁に取り付いて身動きできない蜀兵めがけ、次々に落とされていった。
 さらに、すかさず出現した弓兵、弩兵が、火箭の追い討ちをかけた。
 たちまち──!!
 陳倉城前は火炎地獄と化した。
 火だるまとなってもだえる者、巨大な鉄鍋に頭蓋を砕かれるもの、ぬるぬるとした油で手を滑らせ地上へ落下する者……辛うじて危難を逃れ、ついに城壁上にたどり着いた蜀兵もわずかにいたが、すぐに魏の長槍兵の餌食となって討たれるのだった。
 謝雄もまた、なんとか城壁上に身を上げたひとりであったが、槍衾をもってぐるりと囲まれ、進退窮まった事は云うまでもない。
 彼は、
「我は蜀将・謝雄なり!!城将・カク昭殿と、一騎打ちを所望したい!!」
 そのように大音声で呼ばわった。
 すると、なんとも涼やかな声音で、
「応じよう」
 と云って現れた者がある──カク昭その人であった。

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