カク昭──この人を目撃した謝雄は、思わず唸った。
 真紅の甲冑に身を固めているカク昭は、しかし、どんな美女よりもはるかに勝る清艶を具備して、美しいのであった。
 翳りのある濃いまつ毛の下に、淡い茶の瞳は陽光を吸って輝き、雪よりも白い肌は絹の柔らかさを思わせ、少し開かれた朱唇は、小さくぷくっとふくらみ、ま るで甘露を湛えて匂うかのようであった。
 カク昭、このとき二十代の後半であったが、驚くほど美麗な、まばゆい光を放つ人物なのだった。
 思わず、謝雄は死闘の最中であることを忘れ、呆然と敵将に見とれた。
「当方は、一騎打ちに応じると申しているが……」
 カク昭の言に、はっと我に返った謝雄であるが、長剣を握る手が、ぶるぶると震えているおのれに気づいていない。完全に、男であるカク昭の虜となった謝雄であった。
 これで、勝負になるはずがなかった。
 カク昭の一颯に、自らこうべを差し出すかのように、謝雄は何の抵抗もなく、その首を刎ね飛ばされるのであった。
 この戦いで、魏延勢は三千余の兵力を失った……。

>>次項