三
魏延敗走を知らされ、孔明はすぐに王平、張嶷の両名を呼び、
「各々、雲梯をもって攻め掛けよ」
と、命じた。
雲梯とは──?
これは、諸葛亮孔明発案の、攻城兵器にほかならなかった。
鉄製の長大な梯子車──とでも云おうか……。一台に、十名ばかりの人数が乗り込むことが可能で、カラクリをもって自動で走行する。目的地点に到達するや、搭載された、これまた鉄張りの梯子が、天へ向けてぐんぐんと伸張する仕組みになっていた。
先に魏延が用いた梯子は、これは木製であったので、陳倉側の防衛の前に、火を放たれて灰となっている……。
王平、張嶷の両将は、それぞれ十台ばかりの雲梯を押し出して、陳倉城壁にとりついた。
これを見たカク昭、えたりとばかり哄笑を噴かせ、
「あの鉄車は、雲梯と申し、孔明が考案した城攻めの玩具にほかならぬ!!このカク昭を対手とし、今さら雲梯ごときを繰り出す孔明が知略の程が知れるぞ!!」
高らかに公言するや、かねて選定の精鋭騎士三十名を呼び、
「続け!!」
と鋭く指令して、にわかに城外へ突出した。
そして、つむじ風よりも速く、雲梯の後方を馳せ抜けた。
すると──。
どうした事か、次から次へ──二十台の雲梯は、四囲にこだまする崩壊音を立てながら、崩折れていくではないか……?!
王平、張嶷の両将も、何が起こったのか分からず、とにかく羽虫のように飛び回るカク昭と三十名の軽騎隊を封殺せんと、雲梯を捨てて、敵を取り囲むべく包
囲の隊形を成した。
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