中ほどを粉砕された井闌の中には、横倒しにゆっくりと崩折れ、そのまま別の井闌にぶつかって共倒れになるものもあった。
 馬岱は、もはや井闌を用いて、陳倉を攻略することは無意味と悟り、その兵器を捨てるよう手下の兵に命じ、死を覚悟して捨て身の突撃を敢行した。
 馬岱としては、丞相・諸葛亮にあれだけの侮辱を受けたのである。このままおめおめと引き揚げるわけにはいかなかった。だが、それがいかに無謀な行いであるかは、当の馬岱自身がよく理解していたのである。
 この動きを目撃したカク昭が、
「よし!!あの敵将は馬岱のようだが、きゃつを捕殺するは今を置いてない!!」
 と勇躍して、精鋭の軽騎部隊をもって押し出したのは、当然であった。
 あっという間に──馬岱勢はカク昭の電光のような速撃の前に、潰乱の憂き目に遭うのだった。
 もし、ここに張苞、関興の両若武者が、救援の一隊をもって殺到して来なければ、馬岱はついに命を落としているに相違なかったであろう……。
 張苞、関興に率いられた部隊の出現に、カク昭は、
「これまでだな」
 と即断し、疾風に乗ったかのごとく、さっと陳倉城内へ退いたのであった。


 攻防は、ついに二十余日に及んだが──。
 蜀軍は連日敗退を重ね、ついに、漢中を出撃した総兵力の半ばを失ったのである……。
 対してカク昭の側は、ただの一兵も死傷せず、その士気は高騰するばかりで、たとえ十年でも戦い続ける気魄を持するのであった。
「丞相──。もはや……」
 暗鬱の気色で、姜維は云う。
 この被害を出して、なおも陳倉攻略に執着する孔明ならば、姜維はおのれの死をもって、これを諫止するほぞを固めていた。
 孔明は、まるで幽鬼のようにうっそりと佇立したまま、高処の地形に設けた自陣から、ついに抜くことの出来ない鉄壁の陳倉城へ、虚ろな眼差しを向けているばかりだった。
「丞相……、漢中へ戻り、なにとぞ再起を──」
 必死の嘆願を言葉にした姜維へ、孔明はようやく面を向け、しかし、凝っと黙したまま、その若く、秀麗な容姿をもった弟子を見詰めた。

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