このキン詳という少年も、ひときわ端麗な容姿を備えてはいるが、しかし、カク昭には一歩を譲る。いまも、かれはカク昭を間近に見て、正直に、
 ──これは、なんと愛らしいやつか……?!
 と、胸裏で認めざるを得なかった。
「……わたくしに会いたいという、その御用は、なんでございましょう?」
「用件は知らぬ──。ただ、付いてくれば、おまえの親父は助けてもらえるかもしれん」
 はっと顔を上げたカク昭、その瞳に、希望の精気があふれた。
 それがまた、キン詳には、まばゆいほどに麗容に映ったのである。
 ──このカク昭というやつ、狂うほどに美しい!!
 カク昭の妖冶に当てられて、キン詳は目くらむ思いであった。このような神美の持ち主が、世に存在しようとは──!!
 おそらく、カク昭はこの自分に従ってこよう。そして、孔明はこの少年をおのが胸に抱く。昼間は、孔明の好色の視線を受けるカク昭に妬心を起こしたキン詳であったが、いまは、逆にこの少年を陵辱するであろう主人・孔明を、激しくうらやむのであった。


 江州の官邸の、もっとも奥まった一室──。
 ここは、軍師将軍・大司馬府庫、諸葛亮孔明が巡視に訪れる際、必ず設けるように命ぜられて急造された、特別な居室であった。
 そして、平素は、どんなに孔明に近しい人物も、入室は許されなかった。そこに出入りできるのは、キン詳を初めとする、いずれも容姿美麗の少年たちばかりであった。
 カク昭がそこへ通されたとき、彼は、思わず昏倒しそうになった。
 彼の想像を絶する奇怪な光景が、そこには広がっていたのである。
 室内には、窒息しそうなほどの甘美な香りが充満し、薄桃色の靄が、視界を覆うほどに垂れ込めている。天井からは、七色に輝く不思議な布が、虹を模して幾枚も垂れ掛けられていた。
 小さな卓がいくつも並べられ、そこには見たこともない果実が、こぼれ落ちんばかりに盛られ、床には、羊毛羽毛が隙間なく敷き詰められて、歩けばふわふわとした感触が、おのれを宙に浮かせているような錯覚さえ覚えさせた。
 もっとも異様なのは、その不気味な室内にいる数名の少年たちである──。
 かられはみな、全裸に水色の薄絹をまとっただけの格好で、ある者は朗々と謡い、ある者は華やかに舞い、そしてある者は主人の膝元によりかかって、猫のように丸まっていた。
 主人とは、むろん孔明である。


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