孔明は、西域よりもたらされた、西方の神々の姿が彫られた華美な四足椅子に、ゆったりと座している。薄衣一枚を、胸元まではだけさせて、彼は手にある白羽扇で足元の少年の背筋を愛撫していた。
 カク昭をここへ招いたキン詳は、自身もにわかに衣服を脱ぎ捨てるや、他の少年たちと同じように、水色の薄絹をふわりとうち掛け、孔明のすぐ脇へよった。
「カク昭、こちらへ──」
 孔明は促したが、カク昭は蒼白の面貌をなお青くして、動けなかった。
「そなたの父を、救うてつかわす」
 さらに孔明が云い、カク昭は、勇気をふりしぼって、その側まで近づいた。
 すると、他の少年たち──四、五名が、するすると天女が舞うに似て、水色の薄絹をたなびかせつつ、カク昭の周囲を取り囲んだ。もう、カク昭は気が遠くなりそうな、おかしな気持ちに陥っている。どうも、この室内には現代でいう麻薬の一種が焚かれているようであった。しかし、それを知ることもできぬし、知ったところで、今のカク昭には、なしうる方策はあるまい。
「そなたは、美しさもさることながら、頭脳も素晴らしいものがあるようだ」
 孔明の声は、カク昭には、なにか呪文のような、怪しい音波に聞こえる。
「その賢いそなただ。もう理解しておろう──。父を救いたければ、私にその身を売るのだ。されば、すぐに父の元に名医名薬を差し遣わし、必ずその疾患を剿除しよう。そなたの父が、あと十年二十年の延命を成しうるかは、そなたのただいまの決断をもって成されるぞ」
 幻惑の中で、吐瀉したいような不快感にこらえるカク昭の頭のすみで、父を救いたい思いと、この連中の仲間になる嫌悪との葛藤が、激しくなされた。
 次第に、彼は立っていることさえ苦しくなり、その場にうずくまってしまった。
 怪奇の美少年らは、やさしくカク昭の体に触れるや、そのまま彼を羽毛で層を成す床に仰臥せしめた。
 反発しようにも、十分に魔気を吸い込んだカク昭は、手先の震えを感じても、これを跳ね返す力が湧いてこなかった。ただ、成すがままに、うつろに視線を泳がせるばかりだった。
 衣服を剥ぎ取られたカク昭の上に、ぶわっと巨大なこうもりのようにのしかかって来たのは、偽りの君子の風を脱いだ、色欲に狂う大軍師であった。
「さあ、どうする?私に身を預けるか?」
 悪魔のささやきに、カク昭は、無意識にうなずいていた。遠のく意識の中で、彼が聞いたのは、おのれの五体の上であさましい性情を顕にした、孔明の高笑いであった……。


>>次項