沈みかけていた真夏の夕日が、木刀を手に対峙する二人の少年を照らし出していた。一人は、十代後半であったが、もう少年と呼ぶのが相応しくない程の立派な体格に、最近生やし始めたのであろう髯も、既に一人前に整えられていた。大きな体も目に付くが、日頃から紅潮しているその赤ら顔は『赤鬼長生』の異名を持つ程であった。
 その赤鬼と対峙する少年は、まだあどけなさの残る童顔の少年。

 「遠くからわざわざ来て、一太刀も交わさずにこのまま終えるつもりか?」

 目の前で構える、自分より小さな少年に赤鬼はそう尋ねた。少年の名は張文遠。遠い町から強い男を求め、腕を磨くために武者修行を続けているという。歳は十五歳程度、体はまだ成熟しきってなかったが、彼の目から発せられる強烈な覇気には、日頃は自分より年少の者からは戦いの要請を受け付けない主義の長生も、何かを感じ、昼前に受け付けてより、既に半日も対峙したままお互い動けずにいた。長生は自分の腕に自信があった。ここまで一度たりとも一対一の剣術で負けたことはなかったし、自分より弱いと思われる者とは戦いを避けてきた。そこに現れた武者修行のこの少年。聞けば彼もまだ自分より強い漢に逢っていないという。それを自分に重ね合わせ、同情に近い感情さえ覚えた。


>>次項