「手が出せないのはお前も同じであろう。年少の差を考えれば、この状態を恥じるのは赤鬼、お前の方だ。」
文遠は長生を睨んだ状態のまま、そう言い放った。長生には闘いにおける美学があった。常に先手を敵に撃たせ、敵の武の器量を測る事、それこそが長生なりの先手であった。明らかに先手が撃てずに迷っている文遠と違っていた。
「そこまで言われては仕方があるまい。公明、いかがなものか?」
長生は自分が先手を撃たねば、この果てしない睨み合いが終わる事はないと思い、この場にいるもう一人の人物に同意を求めた。
二人が対峙する向こうに正座したまま、目を閉じ、瞑想しているように見える少年…歳は文遠と同じであったが、その歳には見えない落ち着きがあった。長生は敢えて人と交わる事を拒んでいた。それは人を信用できない時代の流れのせいでもあったが、自分が赤鬼と言われ、人から避けられている状況を考え、誰とも交わらない方が賢明であると感じていたからだ。しかしこの少年、徐公明だけは別であった。彼の方からすすんで長生と接し、何ら分け隔てなく付き合った。公明の方はどちらかというと学問を重んじてきた為、長生に武の教えを乞い、逆に長生は貧困であったため、学ぶ事のできなかった学を彼から教わっていた。