「長生殿、このまま時間ばかり過ぎても何も終わりませぬし、まして何も始まりはしませぬ。」

 長生はその言葉を待つように、木刀を上段に構え直すと、正面の張遼に向かって殴りかかっていった。その動きは体の大きさからは想像出来ない位速く、あっという間に二人の距離はなくなった。しかし、長生の放った一撃の先に、既に文遠の姿はなかった。文遠はこの時を待っていた。自分が長生より上回るとすれば…唯一、速さ。彼の最初の一撃を交わし、側面から腹へ一突き。これが長い時間をかけて文遠が先手を撃たなかった理由である。

 自分の想像通りに上段から来た木刀を左側に瞬時に交わすと、そこから利き足に力を込め、一気に赤鬼の懐へ飛び込んだ。

─刹那─

 文遠が踏み込んだ先に待っていたのは、長生の太い右腕。長生は突かれてきた木刀を手刀で交わすと、その変わり身の早さに驚く文遠の無防備なこめかみに廻し蹴りを入れた。横に激しく回転しながら。文遠は気を失うであろう、自分に気が付いた。


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