「また陳喜達から何か言われたのか?」

 公明が口に出した陳喜という人物は、この町の名家の一人だった。三ヶ月前、旅の途中でこの町に辿り着いた文遠は、一晩の飯と一夜の宿を陳喜に世話になった。それ以来、何かにつけて陳喜は文遠に近付き、恩を返すように迫っているという。義理堅い文遠も何かの形で恩返ししなければ…と悩んでいた。しかし、長生が、彼とその一派と、幾度となく小競り合いをしている事を後に聞き、その狭間で文遠は悩んでいた。

 「奴は黒山の賊とも交流があるらしいから、あの連中とはもう関わらない方がいいぞ。」

 長生は一人、酒を口にしながら話した。この店に来てからまだそんなに時は経っていなかったが、彼らの机にはもう三本の空き瓶が無造作に置かれていた。長生はその体同様、豪快に酒を喰らった。公明はあまり酒を好まないし、文遠に至っては下戸であった。

 「そう言えば、最近ゴロツキ連中がまた増えて来ましたね。長生殿は先日の蓮池の一件がありますから、十分に注意した方が良いでしょう。」


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