公明が注意を促した『蓮池の一件』とは、こんな話だ。
 先日蓮池という地元の池で、釣りをしていた長生にゴロツキが三人絡んできた。もちろん長生は一人で三人を返り討ちにしたわけだが、どうやらこのうちの一人が陳喜の弟だという。日頃から長生に対して手を打つきっかけを狙っていた彼らにとっては実に好都合な大義名分が出来た…というわけだ。

 「それはそれで良い。俺には暇を弄ぶ良い暇つぶしが出来るというものだ。」

 長生はそう言いながら、大声で笑い、さらに酒を口に運んだ。その間も文遠は口を閉ざしたままであった。公明はそれがどうしても気になったが、長生の呑む酒の酒代が常に自分持ちであることもそれ以上に気になり、一刻も早くここを出たかったので、これ以上の話をしたくなかったのも事実だった。

 「やっぱり俺には出来ないよ…ちょっと行って来る。陳喜さんのとこに行って、話しをしてくるよ。」

 文遠はそう言うと、立ち上がり、その言葉の説明も何もせぬまま、走って店を後にした。残された二人は、何の事か分からずに、彼の出て行った入り口だけを眺めていたが、

 「大丈夫ですよね?」

 という公明の声で、長生も初めて我に帰った。


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