暗闇から姿を現したのは、二人の男だった。一人は今声を出した男の後ろに隠れるように立っている。数日前、蓮池で長生が痛めつけた陳喜の弟だ。そして細長い剣を持ち、弟の前に立つ男こそ、長生に止まれと命じた事件の張本人、陳喜だった。

 「貴様…年端も行かない者をこの様な目にあわせて…恥ずかしくないのか?」

 長生は怒りに肩を震わせながら、鬼の形相で陳喜に言葉を投げかけた。

 「こいつはこいつで、わしを裏切った。わざわざ短剣を渡して、お前を刺すように命じたのに、刺すどころか、戻ってきて、このわしに説教を垂れ始めた。最近の若者は助けてもらった恩も知らずに…。まぁこうしてお前を痛めつける道具になってくれたんだから、こいつもやっと俺の役に立つってもんだ。」

 陳喜はそう言って大声で笑い始めた。それに釣られるように、周りの男達も大声で笑い始めた。

 「で、俺にどうしろと言うんだ?」

 長生が彼らの笑いをかき消すかのように陳喜に問うた。元より赤い顔は怒りでさらに赤みを増し、逆に辺りの暗さと混じってどす黒い様にも見えた。


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