「頭を下げたら、この状況は何か変わるのか?」
少年は長生の横まで来ると、周りの男達を何ら気にする事無く、四つん這いになっている大男に向かい、見下ろしながら吐き捨てた。
「文遠の命を助けるのが先決だ。下手に手を出すなよ。」
長生はどこか恥ずかしさと苛立ちをも感じながら、少年を見上げる事もなくそう答えた。
「こ、こら糞ガキ。手前ぇこの状況が分かってねぇのか?」
陳喜は不思議な少年に戸惑いながらも、目が覚めたように、そう言って縛られたままの文遠の首筋に剣を突き立てた。すると何かを思い出したかのように、切っ先を文遠のこめかみの辺りに付けると、ゆっくりと目の間から鼻の上を通し、頬まで真一文字に深く抉った。文遠の口から悲鳴にもならない声が出始めたが、斜めに引かれた剣の足跡から吹き出る大量の血は、左目から顔の斜め左全体を真赤に染め上げた。
「陳喜ぃ!止めろ。頼む、おい、お前もここは大人しく、動かないでくれ。」