そう言うと、少年の体は暗闇へと消えた。どの方向に動いたのか、驚くべき殺気に頭を上げた長生はもちろん、ここにいる誰もが少年の正確な動きを捉えることが出来なかった。ただ、右から順番に蝋燭が消され、次々と倒れていく男達の大きな体が地面と接触する音、断末魔の悲鳴、骨まで刻まれるような鈍い金属音が聞こえるだけであった。その間、僅か三〜四回呼吸をしただけの時間は、長生にとってはまるでそこだけゆっくりとした時間が流れている様でもあった。

 静まり返った小屋の中で、入り口に明かりが灯された。そこには昼間見たあの老人の姿があった。手には新しい蝋燭が持たれ、その明かりで、入り口から長生のところくらいまでは何とか目で確認する事ができた。

 「快慈、終わりじゃ。帰るぞ。」

 奥から出てきた少年は全身に返り血を浴びながらも、相変わらずの妖しい笑顔は崩れる事無く、長生の近くまで来て、まだ正座した状態の彼を、また見下ろす様に話し始めた。

 「三日後、蓮池のほとり。」

 ただ一言、そう告げると、少年は老人と共に部屋を後にした。静まり返った真っ暗な小屋の中に、無念にも死んでいった数人の男達の怨念を感じながら、長生は何が起こったのか、把握しきれていない自分と、人を殺めることに何の抵抗も感じない少年に激しい怒りを感じていた。


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