惨劇から三日が経ったが、いまだ文遠は歩くのがやっとの状態だった。口の中も激しく切っていた為、食事も口に出来なかったが、公明がお粥を作ってくれたお陰で、何とか体力を維持することが出来た。顔にはあの時に付けられた斜め十文字の傷が、深く残っているが、これが一生消えないであろう事は、本人も自覚していた。昨夜などは「元々童顔だから、これくらいの方が拍が付いて、良いだろう」と自分で慰めていた。

 長生はと言うと、何かに悩んでいるのか、一人閉じ篭もり、瞑想した状態で、ただ時を待っていた。夜が明けたのを確認すると、愛用の木刀を手に持ち、久方ぶりに目を開けて立ち上がった。

 「長生殿、行かれるのですか?」

 公明は出て行こうとする長生にそう聞いた。彼ももちろん止めるつもりはなかった。それが無駄な事だと分かっていたし、何より自分もまだ見ていない、人を殺す事に躊躇わない少年を見てみたかった。ただ公明には気がかりな点があった。陳家は、枯れてもこの町の名家で、先日の虐殺は、長生がやった事だと町の人間は皆思っていた。つまりもうこの町に彼の居所はなかった。

 「行く。俺の怒りが何に対してなのか…その答えもあいつと闘うことで、ようやくわかる気がする。」

 長生はそう言って家を出て行った。文遠は彼の決意を目にし、満身創痍の体に鞭をうって、何とか立ち上がり、公明と共に彼らも蓮池へと向かった。辺りは雷を含んだ雨雲が広がり始め、朝だというのに夕方かと勘違いするほど、暗い一日の始まりであった。


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