風に揺られる大量の葦の中で、二人はそれからしばらく、睨み合ったまま動かなくなった。長生は木刀を持つ手に異常に力が入っているのが分かった。なぜここまでこの少年を嫌うのか、その理由は自分には分からなかった。しかし、鬼の形相で睨みつける長生に対して、少年はただ仁王立ちし、怒りに猛る長生をあざ笑うかのように、微笑んでいた。雨雲は雷を含んだ強い雨へと変わり、二人にも横殴りの雨が容赦なく襲い掛かっていた。
「真剣じゃないのに、これだけの殺気が出せるのはさすがだが…命の取り合いという感覚がお前にはまだない。多分…まだ人を斬った事がないんだろ?」
妖しい笑みを見せる少年は、長生の痛いところをズバリ突いてきた。長生はまだ人を殺めた事がなかった。少なからずその事に、嫌悪感や罪悪感を感じていたので、ためらいがあった。あの時も、仮にこの少年が出てこなかったら、自分は彼らを斬る事もなく、結果それが半永久的な復讐の螺旋へと繋がっていく…長生はこの少年の非情なやり方が気に入らなかった。しかし、それと同時に、少年がやらなければ、この復讐の螺旋が永久的に続いていたという事に腹立たしさも感じていた。