「人の命を粗末に扱う者に、武を語る資格などない。」

 長生は自分へのもどかしさを、少年に向け、声を荒げて叫んだ。公明と文遠はこのやり取りを湖のほとりで眺めていたが、二人の間に入ることはおろか、この場にいることさえ場違いに思えていた。

 「語るに足らないな。あの時闘えなかった自分が悔しいだけだろ?そのうちお前も分かるさ。敵になるべき男なら、殺せる時に殺しておかなければ、後悔することになる。まぁいい…とにかく、俺は久しぶりに燃えてるんだ。殺しあおうぜ。」

 少年はそう言うと腰を深く落とし、腰にある剣を抜いた。少年の体に合うように作られたと思われるその剣は、普通のものよりかなり短めだったが、少年の体の大きさには、完璧に合っていた。少年は切っ先を地面に付け、低く身構えるという見た事もない独特の格好で、臨戦態勢に入った。一方、少年の言葉に返す言葉の見つからなかった長生は、少年の剣より二倍は長いかと思われる木刀を頭の上で大きく廻し、背中の方にくるりと返すと、こちらも腰を落として、左手を前に出す独特の構えを見せた。二人の間に、言葉に出来ない緊張感が走った。


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