横殴りの雨が二人の間だけ、やけに遅く流れているような気さえしていた。その雨の一粒が、長生の片目に入ったのを、少年は見逃さなかった。切っ先は地面に真一文字の足跡を残し、あっという間に二人の距離は皆無となった。下から飛び上がるように襲い掛かる少年の剣に、長生の反応が遅れたのは、雨が目に入ったからだけではなかった。彼がこれまで闘ってきたどの漢達よりも、その剣さばきは早く、閃光と化した刃は、長生の足元から真っ直ぐ上を目指して襲ってきた。

 「避けられない!」そう感じた長生は咄嗟に左手で、少年の腹に握り拳を叩き込んだ。少年の放った一撃は長生の見事な顎鬚を見るも無残に変形させ、彼の顎から鮮血が迸ったのを見る限り、恐らく微妙に顎を捉えたのであろう。しかし少年も長生の左拳によって、先程まで彼がいた同じ様な位置にまで飛ばされていた。少年は胸を押さえながらゆっくりと立ち上がり、またあの怪しい笑顔を浮かべながら、声を上げた。

 「ちっ、咄嗟に手を出すあたりが凡人じゃないね。今のは、首の血流を狙った一撃。殆どは今の一撃で死ぬよ。」


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