「では皆さん、炊事場の方へ」

 亮はそう言うと奥からいつの間にまとめたのか、自分達の荷物を持ち出すと、炊事場の方に弟の手を引っ張り歩いていった。炊事場はそれほど広くはなかったが、調理に使う道具などが几帳面に並べられ、そこからも亮の性格が少し垣間見えるような気がした。亮はおもむろに炊事場の端に行くと、足元の床の板を一枚はずした。そこは階段状になっており、かなり深い様に思えた。

 「これは?」

 戒は地下道だと分かっていたが、聞かざるを得ないほど驚いた。自分と同じ歳の子供が暮らす家にまさか逃げる為の地下道が掘られているとは?何のために?万が一のために子供がここまでするのか?…とにかく戒には何も分からず、ただこの亮という少年が、自分と同じなのは歳くらいで、とてもかなう適う様な相手ではない…そう感じて、体中に鳥肌が立った。

 「用意周到ですね。この日が来るのが分かっていた、とでも言いますか?」

 趙神はそう言いながら蘭と戒を先に降ろし、亮の顔を見ていた。

 「そこまではさすがに…」

 亮は苦笑いをしながらそう答えた。玄関の戸を叩く音と外からの声は徐々に大きくなり始め、今はもう数十人の怒鳴り声となっていた。


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