趙神はそう言いながら数人の男達へ近づいていった。剣を抜いていないのには訳があったが、趙神自身はそれを少し恥ずかしく思っていた。男達は何やら声にならない声を絞り出すと、一斉に趙神に襲い掛かった。趙神は鍛えられた兵士達の切っ先の方がまだ交わし易いな、と冷静に考えていた。彼らは素人だけに武器を扱うというよりただ振り回すだけだった。中には隣で身構える仲間を切りつける者もいた程だ。しかし趙神の身のこなしは彼らの宛てのない攻撃のさらに上をいっていた。一人、また一人、首の後ろを手刀でなぎ倒し、あっという間に男達は呻き声と共に皆倒れていった。
「今のうちに、早く逃げましょう!」
蘭が目を丸くして目の前の圧倒的な力に驚く二人の兄弟に声を掛けた。亮はようやく我に帰ると均の手を握り、勝手知ったる林の中を一目散に走り出した。戒や蘭もその後に続く。趙神は倒れている男達が皆気を失っているのを確認すると彼らに続き走り始めた。
どうやら、先程の騒ぎで亮の家を取り囲んでいた町の人間がこちらに気が付いたらしく、先を競って五人を追いかけて来た。林から南門に出る予定であった。五人は道ではない様な道を必死に走った。門を飾る火が見えたのを最初に確認したのは蘭だった。
「やった!着いたよ!早く町を出ましょう!」