「早く出ろ!」

開け放たれた門を背に趙神は叫んだ。町の人間は既に林を抜けて来た者もいた。追っ手はすぐそこまで来ている。蘭も亮達の背中を押し、呆然と見つめる彼らに早足を促した。四人が門を出たのを確認すると、趙神は中から門をまた閉め始めた。門の中では続々と人間が集まり始めている。中には女性や老人、子供の姿さえ見える。もう百人は下らない。さらに人は奥から奥から、数え切れないほど集まり始めた。しかし彼らもさすがに目の前に転がる兵士達の姿を見ては容易に手を出すことが出来ずにいるようだ。趙神が門を閉めかけたのを見て、戒が口を開いた。

「趙さんはどうするの?」

趙神は卑しい笑顔のまま戒ではなく、亮に向かって話しかけた。

「このまま出ても女子供の足なら、一刻も待たずに追いつかれる。ここで殺っておかなければ、殺られるのは俺達だ。」

亮は恐怖を感じていた。しかし、それは恐怖ではなく、何か悲しいもの…言葉にするのは難しかったが、趙神の姿から悲しい何かを感じていた。

「しかし…私はこういうやり方をやはり上策とは思えません。憎しみは憎しみを呼び、悲しみは悲しみを呼ぶのではないでしょうか?」


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