「戒さん、お姉さんを必ず守ってあげて下さいね。男の子なんですから、喧嘩や闘いの中だけではない『強さ』を身に付けてください。」
戒に向かって中腰で話しかけた趙神は、もうあのあやしい妖しい笑顔ではなく、いつもの優男に戻っていた。
「趙さん…本当に行っちゃうの?一緒にこの人達にお世話になろうよ。」
今にも泣きそうな戒は無理だと知りつつも、そう聞いてみた。趙神は何も答えずに背を伸ばすと、蘭の方を確認してみた。彼女は最初から涙を隠そうとしなかったが、降り始めた雨が、さらに彼女の悲しみを増殖させているようで、とめどなく溢れ出す涙を止めることも出来ずに、ただ趙神の方を見つめていた。
趙神は意を決した様に劉備に一礼すると、来た道の方へまた歩き始めた。蘭は戒の方に近づくと、彼の手をしっかりと握りしめ、小さくなっていく趙神の背をただ見つめていた。
「趙さん…また会えるよね?」
蘭は戒の問い掛けに答えたかったが、涙を止めることが出来ずに、どうしても言葉が出なかった。代わりに答えてくれたのは、関羽だった。