目配せする者、何やら怒声を吐いて通り過ぎる者…多くの騎馬兵が、通り過ぎる中、一人が馬を止め、彼らに話しかけてきた。
「ここは戦場になります。早くいずこかへ…ん?…失礼ですが、その敷物は?」
男は趙神の持っている荷物を包んだ敷物を見て、不思議そうに声を掛けた。その敷物には洛陽にいた頃、宿屋で使っていた王宿店の模様が描かれていた。
「それは私の父が営んでいた宿屋で使っていた敷物ですが…」
蘭が訝しげにそう答えた。特にその男に対して警戒していなかったのは何故か分からなかったが、彼が大軍の将とも思えなかったし、あまり強そうにも思えなかった。強烈に印象に残ったのは彼の大きな両耳だった。戒は、密かに「猿みたいだね」と趙神に小声で呟いた。
「もしや、あなたは王理殿のご子息ですか!私は劉玄徳と申します。若い頃、お父上に一方ならぬお世話を…」