「しっかりしろ!もう大丈夫だ。誰がこんな事をした?」

 夏侯惇のこの問い掛けに、少女はさらに奇声を上げ、恐れ慄いた。仕方なく夏侯惇は少女の左頬を軽く張り上げた。少女はようやく夏侯惇の存在に気付いたのか、今度は大声で泣き出し、彼の逞しい胸板に飛び込んでいった。

 「もう大丈夫だ…案ずるな。教えて欲しい。この町で何があったのか?誰がこんな事をしたのか?」

 「あれは人間ではありません。人を殺すのをまるで楽しむかの様に…笑っていました。私の父を殺す時も…」

 夏侯惇はその一部始終を聞いた。町の人間が曹嵩殺害に深く関わった事、諸葛という少年兄弟が三人の旅人を匿った事、その三人を自分達と勘違いし多くの町の人間が彼らを殺害しようとした事、そして笑いながら殺す恐ろしい青年…。

 「青白く光る剣に、情けを知らない青年か…面白い話だな。」

 夏侯惇は空を見上げてほくそ笑んだ。


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