一
趙神は何かに導かれるように、再び中原への道を歩いていた。どこを目指しているのかは自分ですら分からなかった。今はエン州に入ったばかりのとこだろうか?喉の渇きは所々の湧き水などで潤せたが、空腹はどうしても隠し切れなかった。
「おい、いい加減腹が減って動けそうにない。悪いが、何か食う物をくれぬか?」
この林道の最中、誰かの人影がある訳でもないのに、趙神はそう大声を上げ、道の真ん中に大の字に寝てしまった。鳥の囀りが晴れ渡った空にやけに響き、趙神は何も考えまいとばかりに目を閉じた。─と、一陣の風が吹き抜け、気付けばいつの間にか大の字の趙神の上に黒装束の人物が覆い被さる様に乗り、右手から覗く小さな刃は確実に無防備の趙神の首を捕らえ、いつでも掻っ切る準備はあると言わんばかりに見える。それでも趙神は目を開けずに大の字の態勢を崩さなかった。
「いつから気付いておったのだ?」
その声は趙神の頭の向こうから聞こえた。つまり、そこには趙神の上に乗った人物と、趙神の向こうから声を掛けた人物の二人がいるようだ。
「おっ?爺さん自ら来なすったか?お前等も飽きずに良く追うのぉ。」