その人物は戦闘体制を崩さずに、顔を覆う布を下ろした。そこには先程までの動きが嘘の様な綺麗な女性の顔があった。顔には笑顔はなかったが、目しか見えない時は不気味だったあの目の上の装飾が、今は白い肌と真っ赤な唇に見事に映え、格別の化粧の様であった。
「久しぶりね…快慈。あなたの首を取るのをどれほど夢に見た事か…。積年の恨み、お頭の仇、そして新しいお頭の命を遂げさせてもらうよ。」
手に持つ暗器に力を込めた紫音だったが、それをもう一人の声が寸での所で止めた。
「紫音、よせ。今はその時ではない。」
趙神はそのやり取りの最中も動じる事無く、座ったままであった。まるで彼らが襲ってくるはずがないと思っていたのか?それとも例え襲ってきたとしても、この状態からでも十分に対応できると踏んでいたのか?
「紫音、悪いけど漢匠の爺さんの言う通りだよ。新しい頭って『あいつ』だろ?紫音と爺さんをわざわざ送って来る所が『あいつ』らしいな。」