そこでようやく、趙神は気だるそうに立ち上がった。と、いつの間にか背後から黒い腕が彼の首に巻きつき、切っ先が再び彼の喉元を捕らえた。趙神は言い知れぬ殺意を背に感じた。

 「簡単に俺の背後を取れるのは、そう何人もいない…殺気を感じさせずに足音一つ立てず…暗殺者としては趙一級品だな。」

「褒めてくれてるの?それは有り難いけど、あなたを殺すのはいつだってできる事を忘れないで。」

相変わらずの笑顔を崩さない趙神に対して、紫音は全く表情を変えなかった。まるで感情のない人形の様であった。

「そうか?お前の右腕が引かれるのが先か?俺の左手が刺すのか先か?それはわからないぜ?」

紫音はそう言われて初めて、自分の短刀が一つ、無くなっていることに気が付いた。それはいつの間にか趙神によって奪われ、自分の左脇腹に食い込もうとしていることにも。

 そんな二人を尻目に、漢匠は自分の持っていた小さな袋の中から、何やら取り出すと趙神の目の前に放り投げた。


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