「野鼠を焼いてある。こんな物しかないが、今のお前には高級料理であろう?」
その漢匠の言葉の最中に、紫音は大きく後ずさりし、趙神の攻撃範囲内を脱出した。趙神は後ろを振り返らずに、奪った手戟を目の前に持ち替え、その食料を拾おうとした。しかし突然、苦痛に襲われ肩を抱えて、顔を歪めた。
「全く油断も隙もあったもんじゃないな。」
あっという間に鮮血に染まる趙神の右腕は横一文字に切り裂かれていた。彼も気が付かない間に紫音は、手戟を深く突き刺し、同時に飛び退いたのにようやく気が付いた。
「言ったでしょ?その気になればいつでも殺せるって。」
紫音はそう言いながら、自分の手戟を右腰に戻し、左手を突き出して趙神に自分の武器を返すように促した。
趙神は右肩を押さえながら、久しぶりに見る食料の前に腰を降ろすと、遥か遠くを目掛けて紫音の手戟を放り投げ、素知らぬ振りで与えられたものを食べ始めた。その間も右肩から腕にかけては夥しい鮮血が溢れ出していたが、もう特に気にする様子もなく、何かに取り付かれた様に、趙神は食べ始めた。