「お前の殺害はそうそう簡単にできる事ではない。長い時間を割き、好機を見つけて寝首をかけば良い。お前みたいな男とまともに闘おうなどとは思っとらんでな。呂布も強い。この目で確認したが、あれは鬼だ。二人だけでは些か心許ない。尤もこの話はお前にも大きな益があるはずじゃが…」

 漢匠は皺だらけの顔をさらに歪め、謎めいた言い回しでそう話した。

 「俺に何の益が?勿体ぶらずに話せよ。」

 「『方天画戟』それが奴の得物じゃ。興味はないか?」

 その名前に趙神は敏感に反応し、身を乗り出した。

 「鶴の神器…方天画戟か…良かろう。お前らに手を貸すつもりはないが、俺と呂布が闘うのは運命の様だ。俺が勝った後は好きにするがいいだろう。どうせ俺が負けてもそれはそれで、俺の首を獲れば良いのだから、お前らに損のない話だな。」

 「いかにも。では交渉成立だな。」

 「ただ…一つだけ条件がある。」

 趙神は立ち上がりながら、辺りを見回し、続けた。

 「紫音は本当に背後から俺を刺すぞ。躊躇いも無く…な。敵に集中したいのだから、爺さんから良く言って聞かせてくれ。」

 漢匠は趙神の思いもかけない条件に大きく笑い飛ばした。笑えない話だと趙神は真面目に一蹴したが、漢匠は笑いを止めず、歩き始めた趙神の後をゆっくり追いながら話し始めた。

 「案ずるな。一応言って聞かせるが、あの娘が聞くかのぉ。まぁお前が彼女にした事に対する個人的な感情も入っておろうから、約束は出来んが…この話もそこら辺で聞いておろうからのぉ。」

 趙神は、そうだろうなと心の中で思いつつ、濮陽に向けて歩き始めた。


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