─鉅野城内─

 「公台!何も手はないのか!お前みたいな匹夫を信用した俺が馬鹿であった。誰ぞ、良い策を献策してみよ」

 文武各将が集まる小さな宮中で、呂布は怒鳴り散らしていた。諸将の先頭にいる一際背の低さの目立つ男は握り拳を隠す事無く、下を向き悔しそうに項垂れていた。こんなはずではなかった。ケン城が荀文若によって固く守られ落とせなかった事、程仲徳という男が東郡の范と東阿を説得し、呼応させられなかった事、曹操の帰還が思ったよりも早かった事、そして何よりこれまで自分が扱ってきた曹操軍の兵が、青州兵を中心に想像以上の強靭さである事…全て想定外の出来事で自分の不運を恨んでいた。

 「ここを固持するにしても兵糧は心許ない状況です。ここは思い切って敵の虚を突く奇襲をかけ、その隙に別方向を本陣が突破して、まずは生き延びましょう。命さえあれば必ず再び好機は巡って来ましょう。」


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