諸将の一人、凛々しい顔の男がそう答えた。品格のある顔相は綺麗に整えられた髯がさらに優雅さを醸し出し、立派な体格はどの武官よりも彼の力量が上である事を物語っていた。しかし彼の顔には明らかに人と違う特徴があった。ちょうど眉間の真ん中を中心に×印の大きな傷跡が左右対称に綺麗に残っていたのだ。明らかに作為的だと思われるその傷の由縁を彼は何故か絶対に語ろうとしなかった。彼の名は張遼文遠。雁門出身で呂布の生え抜きの将であった。
「文遠、貴様…この俺に逃げろと申すか?」
呂布は背後に立て掛けてあった立派な戟を手にすると、椅子から立ち上がり、今にも飛び掛りそうな勢いで張遼を睨んだ。戟は太さも長さも明らかに一般のものとは違っていたが、刃が付いている部分、つまり戟の首の部分から地面に届きそうな長さの真っ白な羽の飾りが二本下がっていた。それは呂布本人が頭から下げている物と同じで、彼が自分で付けたものか、もしくはそれを気に入った呂布が自分の頭に飾りを付けたのか…どちらにしてもこの羽が由来となり彼は『飛将軍』という異名で戦場において恐れられる事になったのだ。