「あのなぁ…一時的とは言え、今は一応仲間だろ?その仲間にお前はどうして刃を向けてるんだ?」

 趙神は夜に紛れ、草むらの中に身を隠していた。そこから五十歩くらいの位置に曹操軍の陣営屯所が一つ置かれてある。彼らの屯所はかなり狭い感覚で点在していた。どこにどんな兵がいるのかも全く分からない状況ではあるが、昼間の漢匠の言葉を信じるなら、この辺を通れる様にしてくれるはずだ、と思い待機していた。しかし、半身になって草むらから外を覗く趙神の腰の辺りに先程からずっと冷たい切っ先が張り付いていた。

 「こんな暗がりにあんたと二人じゃ、信用しろって方が間違いでしょ?」

 紫音は冷ややかな流し目を趙神に送りながら、少し切っ先に力を込めてみた。僅かな音を立てて切っ先は趙神の腰へめり込み、赤い血が筋を引く様に落ちてきた。趙神は急な感覚に思わず「うっ」と声を出したが、すぐに口を手で隠し、事無きを得た。

 「だから、あれほど反対したんだよ。お前と行くのは。」


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