「よく言うわね。昔は喜んで手を繋いで来たくせに」

 趙神は彼女がどんな顔でそんな事を言っているのか気になって後ろを向いてみた。瞬時に切っ先は趙神の左目に一寸の所に迫ったが、趙神は瞬きませずにその手をゆっくりと握ると、目の前からずらした。

 「まだ未練があるんじゃねぇか?『あいつ』より俺の方が良かっただろ?」

 趙神のその顔は、卑しい笑顔に変わり、知らない人が聞いても、その言葉が嫌味に満ちている事は容易に想像できる表情であった。それでも紫音の表情は全く変わらず、右手は動かせない状況のまま、吐息を感じられる距離まで趙神の顔に自分の顔を近付け、

 「あなたこそ、私の事が忘れられないんじゃない。」

 と言うと、自由な左手を趙神の右腿の辺りに持って来た。しかしその手からは新たな切っ先が突出し、その刃はかなり深い位置まで、彼の腿を抉った。趙神はさらに苦痛の表情を浮かべると、顔をしかめたが、すくっと立ち上がった紫音にすぐに痛みを忘れ、注意を促した。


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