「どうやら予定変更みたいよ。」

 紫音のその言葉を聞き、趙神は初めて異変に気が付き、隠れる事を止めて、立ち上がった。見ると、そこは既に戦場へと変わりつつあった。鉅野の門はいつ開かれたのか、呂布軍の将兵が少人数ではあるが、曹操軍へ夜襲をかけていた。不意を突かれた曹操軍は四方八方に逃げ始めていた。

 「ちっ、行くしかねぇな。」

 趙神は舌打ちして、その一歩を踏み出そうとした。しかしその一歩目で思い留まった。紫音は自分の足への一突きが効いたのだろうと、少しほくそ笑んだが、趙神が背から抜いた不知火を見て、一瞬怯んだ。妖刀は見事に妖しく輝き、夜の暗がりがさらにその青白さを演出している様にも思えたが、その切っ先から水滴が止め処なく流れていた。

 「恐くて漏らしてるんじゃないの?」

 趙神は無表情で冴えない冗談を言う彼女に一瞬白い目を向けたが、すぐにまた戦場に目をやると、何かを見つけたのか、またあの笑い顔を見せ、歩き始めた。

 「こっちも予定変更だ。お前は呂布を見つけろ。俺は目の前の獲物を先ず狩る。」


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