紫音の返事を聞きもせずに歩き始めた趙神の背を見ながら、紫音は呟いた。
「勝手な所は変わってないみたいね。おんたに命令されなくてもそうするわ。」
紫音はそう言うと一直線に開け放たれた鉅野の門へ向かって走っていった。
怒号や悲鳴の飛び交う中、その男は真っ白な馬を自在に操り、次々に敵兵を薙ぎ倒していた。馬上の彼の攻撃はまるで舞を見ている様に艶やかであった。一寸の狂いもなく敵の急所を突く攻撃のせいだけではなく、彼が一突きする度にどこからか聞こえてくる金切り声が音を奏で、それに合わせて彼が舞っている…その様な感覚を殺される寸前の兵達は感じていた。
まるで舞を見せるかの様に、曹操軍の一角を崩した張遼は城を振り返り、十分に時間を稼いだだろうと確信した。その証拠に四方から敵の兵が束になって迫りつつあった。
「よし、頃合だ!皆、生き延びよ。生きて再び張の旗の下、闘おうぞ。」